事例

株式会社セゾン情報システムズ(現セゾンテクノロジー)財務経理室 室長 鷲尾 武

経理・財務における
DXのモデルケースに
わずか3ヶ月で“完全在宅決算”
を実現

決算業務中心で管理会計が弱いとされる国内企業では、経理・財務部門の早急な業務改革が求められている。セゾン情報システムズ(現セゾンテクノロジー)の財務経理室も例外ではなく、資金の見える化など経営への貢献を期待される一方、慢性的な人材不足に悩んでいた。また、システムがきっちりと作り込まれているがゆえに変化にあわせた柔軟な対応が難しく、紙ベースのアナログ業務も多く残っているなど業務が非効率であり、経営からの要望に応える余裕がなかった。
この状況を改善すべく2019年9月にプロジェクトをスタートし、わずか半年で大きな成果をあげることに成功した。さらにペーパーレス化が進んだことで、新型コロナウイルスのパンデミックに際して、経理部門も全社と足並みをあわせて在宅テレワークへと移行。最大の山場である期末決算業務を、出社することなくすべてリモートで進めている。具体的にどのようにプロジェクトを進め、成功へと導いたのか。


  • 課題
    財務的観点からの経営への
    提言・貢献など、
    経営層から要望されているミッションに取り組む余裕がない
    導入
    効果
    • ペーパーレス化を推進し、決算業務もテレワークで対応可能に
    • データ収集・整理などの業務を自動化し、属人化を解消
    • グループ全体の資金を見える化・最適化し、ガバナンスを強化

経営陣からのミッション
「財務経理の観点からKPI設定を」

セゾン情報システムズ(現セゾンテクノロジー)では、お客様が期待する価値を提供できる企業であり続けるために、事業構造改革を推進。社内の様々な部門・領域でデジタルトランスフォーメーション・エコシステムを実現する業務改革を進めてきた。今回ご紹介する財務経理室における取り組みもそのひとつだ。

「2~3年前から、社長から従業員1人あたりのコストや売上、効率などのKPIを設定したうえでリアルタイムにアラートをあげてほしいという要望を受けていました(鷲尾)」管理会計を強化し、意思決定の迅速化など経営への貢献度を高めるというミッションだ。しかし、既存業務にあわせてきっちり作り込まれた業務システムは少し変更するだけでもかなりの工数・コストがかかってしまうため、変化に柔軟に対応するのは難しい状況だった。さらに財務経理室は深刻な人手不足であり、業務の属人化も課題となっていた。「システムがサイロ化した結果、経理にシワ寄せがきてしまい、販売管理や営業部門などの各システムから必要なデータを集めて整理するだけでかなりの時間・工数がかかってしまい、限られたメンバーしかできない・分からない状況だったのです」このままでは経営からの要望に応えることもままならない。早急に改善が必要だった。


ペーパーレス&自動化で業務改革。
決算前にもかかわらずわずか3ヶ月で
新体制スタート

そこで、2019年9月からプロジェクトをスタートした。財務経理の業務改革には2つのステップがある、と話す。「最初のステップは、紙をなくすことです。とにかく紙がなくならないと業務改革は始まらないため、経費申請や決算資料をペーパーレス化しました」ただし、紙がなくなっただけでは業務は減らない。「紙だったものがデータになり、システムでの作業に置き換わるだけです。そこで次のステップとしてデータを自動でつなぐことが重要です」増えたデータをひとつずつ手作業でつなぐのは無理があり、人の手が介在すると改ざんの余地が生まれるため、その都度承認が必要になる。余計な作業を増やさないためにも、自動化するしかない。「ここまでしたことで、属人的に対応せざるを得なかったデータの収集・整理などもすべて自動化できました」決算業務において欠かせない数字の確認・エビデンスの確保も自動化。「エラーが出ることもありますが、そもそも手作業だとエラーを洗い出すまでに相当な工数がかかっており、最終的なエラーを確認するだけで済むのは、かなりの負担軽減になります」これにより属人化解消に加え、決算業務も在宅勤務で進められる体制を実現できたという。
さらに、資金管理についても、複数の金融機関における資金の確認・移動を一元管理できる仕組みを実現。海外子会社含むグループ全体の資金を見える化し、すべての資金の流れが把握できるようになった。「海外への投資が増えているなかで、子会社をどう統制するかが課題でしたが、ガバナンスを徹底する体制を実現できました」

また、経理では『期末決算が終わってからでなければシステムは動かせない』というのが常識だったが、今回の仕組みは既存システムに手を入れることなく利用できる。期末決算のコア業務に影響しない機能に限定することで、早いタイミングでの導入を実現できた。こうして2019年12月には新たな仕組みを利用開始。プロジェクト開始からわずか3ヶ月のことだった。

紙ベースで人手による処理と電子データによる自動処理の比較図

業務量約3割削減/年間6400枚の
紙削減など、短期間で大きな成果を上げる

これらの仕組みを実現するに際しては、データ連携により自社の経営改革を推進し、そこで培ったノウハウをベースに社外へのサービス事業を展開するリンケージサービスチームに相談した。「リンケージサービスチームには財務経理室の業務内容を伝えるため、各担当者が実際に使っているExcelなどを見せながら具体的な手順まで説明する説明会を5~6回開催し、あとはすべて任せました。システムやサービスのどのデータをつなぎたいか、といったことではなく、実際にどんな業務をしているのかを理解してもらうことが大事だったのではないかと思います。最終的には、こちらがお願いしていた要望はすべて実現でき、一部どうしても紙しかない・データになっていないものに関する業務が残るのみです」

ここまで自動化を進めた結果、業務量が3割削減、また年間6400枚に相当する紙を削減した。これにより財務経理室の人材にも余裕が生まれ、主要メンバーが1名、経営企画に異動することとなった。「財務・会計の観点での活躍が期待される経営企画に、エース級の人材を送り出せたことも本プロジェクトの成果のひとつと言えるでしょう」
その後、奇しくも新型コロナウイルスのパンデミック対策として全社で在宅勤務をおこなうことに。経理部門だけは出社して業務を進める企業が多いなか、同社では財務経理室メンバーも在宅勤務移行を果たしている。おりしも期末決算の山場を迎えているが、テレワークで滞りなく作業が進んでいるという。「監査法人とも従来のように対面で打ち合わせをすることは一切なく、リモートで監査が進んでいます」

さらに現在、購買部主導で調達・購買に関するペーパーレス化も進めている。これにより、会社に届く紙の請求書がなくなり、完全なペーパーレスを実現できるという。「ここまでで財務・経理に必要なデータをつなぐ仕組みを確立することができました。蓄積したデータからトレンドを分析するなど、さらなる活用も可能になるでしょう。今後、経営からのミッションに応えられる体制を整えられたという手ごたえは十分感じています」