事例

株式会社セゾン情報システムズ

ITツールありきのアプローチは失敗する!
セゾン情報システムズ自身の
組織改革に見るDXのポイント

DXの波が人事領域にも押し寄せている。特にコロナ禍以降、DXの推進によって、ビジネスを取り巻く不確実性に対応する柔軟な組織を目指す企業が急増。こうした企業に対し、“ITツールの導入から考えたDXは失敗の可能性が高い”と語るのは、弊社執行役員 HR戦略部 部長の小山 和也だ。セゾン情報システムズでは、かつて顧客企業から損害賠償請求されることになった事件をきっかけに、大胆な組織風土刷新をともなうDXの取り組みをスタート。残業時間削減や有休消化など働き方改革において数々の成果をあげ、コロナ禍においては期せずしてスムーズな在宅勤務移行を果たした。その経験から導いたDXの理想的アプローチについて紹介する。


  • 課題
    上意下達のヒエラルキー型組織のなかで現場が意見を言いにくい雰囲気があった
    導入
    効果
    • 全社目標に向けて
      各自が自主的に動く
      組織へ
    • ムダの削除、プロセスの見直し、
      作業の自動化で
      意識改革の
      時間を創出
    • 部門の垣根を超え、
      問題を見える化・
      早期解決する
      体制を構築

<背景>
“ノールール”で、自律的に考え動く個人・
組織への脱皮を促す

金融・流通・製造など幅広い企業のシステムインテグレーションを手がけるセゾン情報システムズ。10 年がかりの大型開発案件でお客様から損害賠償請求を受けたのが2016 年。その後の第三者委員会による調査で浮き彫りとなったのは、開発力やプロジェクトマネジメント力とあわせ、閉鎖的な組織風土などの課題であった。「当時は、上から言われたら、『できません』とは言えない上意下達の組織があり、こうした組織風土の刷新が人事部門のミッションとなったのです」と小山は振り返る。

とはいえ、長い歴史のなかで脈々と築かれてきた根の深い問題である。小手先の対策では変えられないと考えた小山は、思い切った施策を打ち出すことに。「ノルマを廃止し、目標ベースで管理する制度も廃止しました」一番上に事業計画があり、そこから部門さらに個人に下りてきて目標数字を押し付けるそれまでのやり方を改め、ベースとなる事業計画に共感・共鳴した社員が自ら役割(計画達成に向け自分ができること、やるべきこと)を決め、自主的に動いてもらうことを目指したのだ。“目標管理をしない”という真逆の方針(メッセージ)を確実に伝えるため、従来の「管理部門」という名称も廃するほどの徹底ぶりだった。「“管理をしない人事”というのは相当珍しいと思いますが、ここまでしなければ変わらないと考えました」

もうひとつ、徹底したのが“ノールール”のポリシーだ。現場の役割が変わるのにあわせて、採用などの決裁権限も現場に委譲し運用ルールを含めまかせていった。「これほど権限を持たない人事もほかではないと思います。現場からは“ルールは必要だ(ルールがないと動けない)”という声も出ましたが、細かなルールは思考停止を招くだけで現場は何も変わりません。ドレスコードを含め“ノールール”を貫き、社員ひとり一人が考え、現場主導でルール(かならずしも明文化されない)が形成されるのを、ひたすら忍耐強く待ちました」

こうした大胆な取り組みの結果、現場の判断で主体的にルールを決め運用していく“自治”が回り始め、静かに浸透していった。
「“自律的に考え動く個人・組織”というゴールをしっかり見定めることで、その後のアクションやITツール選定で迷ったりすることがなくなりました」


<導入>
意識改革のためのリソース確保に向け、
ITツールで業務の“ムダ”を徹底排除

だが、ここまで働き方や仕事への向き合い方を大きく変えるとなると、体質改造も不可欠だ。「自主的に動く(思考する)ためには、そのための時間を創出しなければなりません。意識変革のための時間を確保できるよう、だれがやっても同じような仕事について、自動化を進めることで“ムダ”を徹底排除しました」

ここでいよいよITツールの出番となる。弊社では、情報システム部門が全社の業務自動化を引き受けるプロジェクトを立ち上げ、現場(各部署)からの申請に応じて自動化の仕組み導入を進めた結果、年間12,000時間もの削減を実現した。このほか、経営企画部が作成した受注状況や目標達成状況などを自動で可視化するKPIダッシュボードも用意。
「ITツールについては、弊社のデータ連携ソリューションを中心にデータ可視化ツールなどを活用していますが、全社的にデジタル化を進めていたため、部門の垣根を越えて共同で取り組むことができ、問題のあるプロジェクトがあれば、だれかが気づいて迅速に対応できる体制を実現できたと思います」。

また、権限を委譲すると言えば聞こえがいいが、ややもすれば突き放された印象を現場に与えてしまう可能性がある。「ITツール導入においては、人事部門が常に見守り問題解決へと導く仕組み作りを目指し、現場社員が安心して自由に考え、行動してもらうことを最優先しました」

“ITツールの導入から考えたDXは失敗の可能性が高い”という冒頭の指摘は、まさにこうしたコンセプトありきのITツール導入こそが、最終的にDXの成功につながることを示唆する。

各種システム間に個別の連携プログラムが
必要なく「DataSpider」で完結

■各種システム間に個別の連携プログラムが必要なく「DataSpider」で完結

全社/部門/個人の“今”を見える化

■全社/部門/個人の“今”を見える化

<効果>
残業削減・有給休暇取得・在宅勤務など、
結果的に働き方改革が大きく前進

そして、このプロジェクトの総仕上げとなったのが2017年11月の本社オフィス移転だ。
「人事部が中心となり、従来のオフィス空間とは全く異なる大胆なコンセプト&レイアウトを導入しましたが、社員の意識改革が進んでいたこともあり、どう使いこなすか、各自が考え現場主導で決めていく流れに委ねました」この移転で従来の島型に机を並べるオフィスから完全なフリーアドレスに移行し、在宅勤務もさらに推進。「移転した当初は、現場から驚きや困惑の声もあがりましたが、1ヶ月ほどで解消しました。最初は『オフィス利用法のルールを作ってほしい』という声もありましたが、徐々にスペースの使い方など暗黙の了解ができあがっていく様子が見られ、“ノールール”でも問題ないと確信しました」

このように取り組んだ結果、残業時間削減(月平均40%削減)、有給休暇取得率向上(年間3.9 日増加)などで大きな効果が現れている。「弊社の場合、残業を減らしてください、有給休暇を取得してください、といった働きかけは一切していません。働き方改革をお題目に掲げる企業で、実際にはうまくいっていないケースが多いのとは対照的です。」

コロナ禍以前の時点で既に85%の部門で在宅勤務が導入され、その後の非常事態宣言発出に際し特段の準備や対策不要で極めてスムーズに100% 在宅勤務移行できたのは、自が自主的に多様で柔軟な働き方を模索してきたことの成果と言える。