コラム

2021年7月15日
SAP S/4HANA移行プロジェクトに潜む
“つなぎ=データ連携”という落とし穴
  • データ連携基盤
  • クラウド連携

2027年のサポート終了が公表されている「SAP ERP」。ユーザ企業の多くはSAP社が推奨する「SAP S/4HANA(以下S/4HANA)」への移行を検討していると思います。移行プロジェクトでは、SAPに詳しいエンジニアを中心に、要件定義/設計を経て開発、最後に統合テストを実施…といった流れで進みますが、通常はこれと連動してデータ連携の開発が並行して動きます。ところがこの“つなぎ=データ連携”部分のトラブルで、移行プロジェクトの大幅な遅延やコスト超過など、深刻な結果に至るケースが少なくありません。


S/4HANA移行を困難にする2つのハードル

SAPのような大規模な基幹システムのマイグレーションでは、下記のように考慮すべきハードル(困難)がいくつか存在します。

その①
他システムとのデータ連携

SAPは、販売管理や在庫管理、品質管理、財務会計など、ビジネスの中核をなすモジュールで構成される基幹システムだけに、受発注/物流/給与などのシステム、ECサイト、BI用のDWHなど、様々な周辺システムやサービスとデータ連携しているのが一般的です。そのためS/4HANAへの移行では、必ずこうした周辺システム/サービスとの“つなぎ=データ連携”の作り直しが発生します。大量のデータが必要なうえに、データベースやファイル、クラウドサービスなど対象によって連携の手段やフォーマットも様々。さらには移行の過程で頻繁に発生する業務見直しへの柔軟な対応も求められます。

その②
マスタ移行・連携とコード変換

SAP ERPや統合マスタ、他の基幹システムなどからS/4HANAへのデータ移行も問題です。基幹システム移行のような大規模プロジェクトでは、新旧システムを並行運用しながら段階的に切り替えていくアプローチが一般的で、様々な場面およびシナリオで各種マスタデータの移行・連携が発生します。その際、効率的な初期移行には既存マスタの活用が欠かせず、並行運用開始後は新旧システム間のスムーズな連携が求められますが、移行元マスタと移行先マスタの体系が異なるケースも多く、その場合はコード変換が必要になります。変換自体は複雑なものではありませんが、量が膨大なだけに、変換プログラムを作成するなどなんらかの仕組みが必要です。


移行プロジェクトにおける“つなぎ”の現実と課題

前段では、S/4HANA移行にともなう基幹システムならではの困難について解説しましたが、実際の移行プロジェクトでは、こうした問題に追い打ちをかけるように、下記のような厳しい現実(さらなる課題)に直面することになります。

その①
“つなぎ”の専門家がいない

S/4HANA移行プロジェクトで中心となるのがSAP技術者であるのは仕方がないとして、“つなぎ=データ連携”について熟知した専門家がいない、あるいはいたとしてもごく少数だけという現実があります。データ連携では、SAP標準の汎用モジュールBAPI(Business Application Programming Interface)を利用する、テーブル・クエリを用いてデータにアクセスする、必要なデータをファイルに書き出して受け渡しするなど複数の手法があり、リソースに応じ最適な手法を選択するには一定の知識が必要です。高度なノウハウを持つ“つなぎ”の専門家の存在は、プロジェクト成功の条件と言えます。

その②
接続先(リソース)が多すぎる

基幹システムの場合、膨大かつ多種多様な接続先に応じたプログラム開発が必要になります。たとえばデータベースであればSQLを用いるなど、豊富なプログラム知識が求められますが、そもそもつながらない、接続に適したデータの作成ができないといった問題が頻発し、プロジェクトの遅延や予算超過につながることがあります。また、接続先のバージョンアップやシステム更改によってデータ連携が影響を受ける可能性が高く、改修・メンテナンスの工数やコストは継続的に大きな負担となります。

その③
“つなぎ”構築期間にしわ寄せが

S/4HANA移行プロジェクトでは、メインストリームはあくまでSAPの開発・移行であり、“つなぎ”については“それに付随する作業”程度の位置づけが一般的です。SAP側の要件定義や設計が固まったのを受けて、ようやくデータ連携についての検討がはじまりますが、SAP側の開発期間内にデータ連携を実現し結合テストに臨む必要があり、SAP側の要件定義/設計がずれ込むとさらに短期勝負を強いられることに。コスト的に“つなぎ”の専門家を多数用意することもできず、人材不足と短期勝負の二重苦に悩まされるケースが多いというのが現実です。

その④
仕様変更に対応する専門家がいない

要件定義で仕様が確定したあとは粛々とSAP側の開発が進むだけと思いきや、開発途中で仕様変更が入る事態は十分あり得ます。業務との兼ね合いでより望ましいものだとすれば、多少プロジェクト進行に影響が出るとしても取り組むしかありません。問題はこれによってデータ連携にも変更が発生することです。もしそれが、データ連携開発が一段落したタイミングだとすれば、すでにデータ連携のチームは縮小されている可能性があり、迅速に対応することができず、技術者の手配に時間がかかってしまう可能性があります。

このように課題を見ていくと、意外にも、脇役扱いの“つなぎ=データ連携”が、移行プロジェクト成否の鍵を握っていることに気づきます。データ連携に要する時間やコストを圧縮することで、その分を本来あるべき業務を実現するために投入することも可能になります。


データ連携ツール(EAI)による課題解決

ここからは、様々な課題をクリアしてスムーズかつ効率的なデータ連携を実現するソリューションとして、データ連携ツールのメリットについて紹介したいと思います。
データ連携ツールは、GUIベースでローコードで実現できるものが多く、高度なプログラミングスキルがなくても、作り込まれた様々なデータ連携方式から選択するだけで、簡単にデータ連携を実現するテールです。各連携先の専門家不在でもSAPチームが一元的に担当でき、仕様変更の対応などよりプロジェクト進行の柔軟性が高まる効果も期待できます。このほか、データ連携ツールを活用するには、下記のようなメリットがあります。

その①
実現性の高さと将来にわたる負担軽減

様々なリソースとの接続機能(エンジン)を備えるデータ連携ツールは、スクラッチでのプログラム開発に比べ接続の実現性が高くリスク低減がはかれます。接続先システムのバージョンアップについても、ツール側で吸収される場合が多く、連携の改修など追加的な作業発生も最小限で済みます。

その②
効率化によるプロジェクト期間の圧縮

データ連携に特化して開発されたデータ連携ツールはプロジェクト期間の圧縮にも効果を発揮します。基本的な機能が網羅され、データ受け渡しに関するパラメータの設定・選択だけで実装でき、スクラッチ開発でありがちなミスによる手戻りも回避できます。共通化、テンプレート化によってさらなる効率アップも可能です。

その③
ブラックボックス化や属人化問題の解消

GUIベースのデータ連携ツールを活用することにより、変更履歴もチェック可能なツールも多いので、はじめての方も安心して変更できます。また、GUIによってビジュアル化され、個々のデータ連携について理解が深まり、属人化を防げる点もメリットです。


S/4HANA移行プロジェクトに潜む“つなぎ=データ連携”の落とし穴を回避するためにも、是非データ連携ツールの導入をおすすめします。また、データ連携ツール(EAI)の領域で、7年連続顧客満足度No.1の実績を獲得しているDataSpiderを利用してSAPとの連携デモンストレーションセミナーを定期的に開催しておりますので、ぜひ参加をご検討ください。